3 ヴァティカン市国の壁近くの
ローマ市内で

(イタリア)

 

サン=ピエトロ寺院
 私たちがローマに来たのは、年末だった。ちょうどクリスマスから新年にかけては、ヴァティカンでローマ法王の演説やらミサやらイヴェントが予定されていた。左の写真の広場中央部には、キリストの生誕小屋の模型展示(生まれた幼子キリストやヨゼフ、マリアや東方三博士の人形などが並べられる)があるというので、歩いてそこへ向かっていた。

 ローマ市内のホテルから歩いて行ける距離に、ヴァティカンはあった。ヴァティカンを取り囲む壁に沿って私たちは歩いていた。カトリックの僧や尼や信者らしい人、それに観光客が、けっこうたくさん歩いていた。
 
 反対側から、汚い身なりをした小学校中学年くらいの二人の少女が、手に段ボール箱と新聞紙を持って、こちらにやってきた。私たちの前まで来ると、新聞の紙面を見せるようにする。妻の方は、「えっ、何?」といいながら、覗き込む。わたしはもともと興味がなかったので、少し引いて見ていた。そうすると、もう一人がその反対側に回って、妻のハンドバッグに触っているではないか。ハッと気づいて、「バッグ、バッグ!」と叫ぶと、妻は全く気づいていないらしくて、「何?バッグ?」とのんびりしている。
 
 そこでわたしは少女たちに、日本語で「あっちに行け!コラ!」と追い払う仕草をしながら大声を出した。しかし全く動こうとはしない。顔を見ると、目がすわってこちらを睨み返していた。彼女らは完全に場慣れをしていた。それでも私が近づくと、少しずつ後ずさりをした。それでも半身になってまだ向かい合っていた。そこで今度は大きな声で、また日本語で怒鳴った。子供なので手は出せなかった。そうすると、まわりの人たちが歩くのを止めて、こちらを見ている。雰囲気を察したのか、この時点で、少女たちはやっとあきらめた。睨みながら去ってゆく。わたしも彼女たちが遠くにいなくなるまで、腕を組んで睨んでいた。
 
 妻にハンドバッグを確かめるように言った。口は開いていた。しかし、早く気づいたので、被害はなかった。日本では類似の事件がないだけに、改めて外国での旅行の怖さが身にしみた。簡単に言うと、「取られる方が悪い」のである。スキがあるから、寄ってくる。要するに、「取りたくなる」のだ。また日本人はおおむね金を持っていて、不用心なので知られているという。
 
 アフリカへ「帰って」この話をすると、似たような体験者はいた。わりとある話らしい。日本で発行された旅行書にも「気をつけよう!」というコーナーに、似た事例が紹介されていた。そういう組織やファミリー*もあるという。小学生くらいで、「小遣い稼ぎ」にやっているとは思えないから、「収入」を納める所があるのかもしれない。それにしても。そこまで「有名」になっているものを、ローマ警察は取り締まらないのだろうか?現行犯でなければ難しいから、困難なことは分かるが、観光立国イタリア・ローマのイメージが下がるというものである。

*一説によると、彼らはいわゆる「ジプシー」(正しくはロマ)だという。しかしその証拠がないので、ここでは本文のように表現した。