海鮮物の宝庫、チャガルチ市場へ

 チャガルチ市場

 観光の最初は、日本の観光案内書にも必ず載っている「チャガルチ市場」である。「チャガルチ」とは(石ころ)のことで、昔のこの辺りの浜の様子を表している。本では読んでいたけれど、行ってみて驚いた。波止場に魚河岸や魚市があるのは当たり前のことだが、その波止場に平行した道(路地)には、両側に間口2mぐらいの小さな魚屋が立ち並んでいる。屋根のあるものもないものもあり、ビーチパラソルだけのもある。台に魚類を並べたり、地面にタライを置いてある。中にはびっくりするぐらい大きなナマコがうねうねしていたり、イカが泳いでいたりする。

 売り手はたいてい一人、「アジュメ」と呼ばれる中年の女性が多い。手に魚を持って、通りかかりの人に声をかけ、売り込んでいる。買っているのは、普通の市民である。「釜山広域市観光協会」発行の観光案内図によると、ここは「1950年の朝鮮戦争の時、けなげな女性たちのくらしの場として生まれた。」そうで、韓国女性のたくましさが見て取れる。 不思議なことに、夏だというのに一部を除いて氷も冷蔵庫もない。山のように積まれた魚は、腐らずに売り切れるのだろうかと心配になった。

 そういう路地をおよそ200mも行くと、次第に品物の種類が変わってきた。干物や海苔のような乾物類やインスタントラーメンや野菜の店がほとんどだ。屋台のような造りの店もあり、しまうときは屋根の部分をそのまま下ろしタタムらしい。ひとつ奥の通りに出ると、車が通れる道があり、喧噪そのものである。あふれるほど魚を荷台に積んだ1トントラックが、クラクションを鳴らし続けながら、人間やバイク自転車にいまにも擦らんばかりにゆっくりすれ違ってゆく。店先の漬け物樽風の容器には、ホースが差し込まれ、海水がジャージャー溢れ出している。中には日本では高級品と言われるアワビやホヤ、サザエなどがゆっくりと動いている。そういう樽が延々と並んでいる。

市場の内部

 たくさんの人が出入りしている戸口をくぐると、小さな体育館ぐらいの広さで薄暗いスペースがあった。潮と魚の臭いが充満している。裸電球がいっぱいぶら下がり、数えられないくらいの水槽には、やはり海水が引かれている。横に魚名と値段がハングル文字で書いてある。水槽の間の狭い場所に、粗末な長机といすが置いてあり、何人かが食事をしている。客が水槽の中の好きな魚を選ぶと、料理をしてくれ、その場で食べられるそうだ。これ以上新鮮なものはないから、「魚好き」には堪えられないだろう。 このチャガルチ市場を短いことばで言い表すと、「海鮮物の宝庫」と「喧噪(けんそう)と活気」であろう。強いて日本で例えると、有名漁港の慌ただしさと高知の朝市と東京上野の「アメヤ横丁」を足した感じであった。まさにプサン市民の生活エネルギーの源を見る思いであった。