旅にまつわる話・纏わらない話
旅にまつわる話・トップ
第二十八話 トレド旅愁
 
 スペインのトレドはたいへんチャーミングな町である まず三方をスペイン最長のタホ川に囲まれている水のある風景を持つ これはこの乾いた高原が占めるイベリア半島では重要な要素である 水は生活用水だけでなく、人の心を和ませる 因みにこの川は隣国ポルトガルまで流れて「テージョ川」と名前を変え、滔々と大西洋に流れ込む 
 
 次に歴史的に意味があることである 711年イスラム教徒がこの地を支配して以来、カトリックとイスラムの葛藤、闘争がつづき、1492にグラナダがカトリックの国王によって陥落するまで、半島全体でイスラム文化が花開いた キリスト教中心のヨーロッパ社会では特異な事柄である

 三番目に、上記のことによってアラブ(イスラム)、とそれを支えたユダヤの文化の上にキリスト文化が付け加わった それは決して「破壊」ではなく、むしろ「融合」といって良い 建造物を見れば、容易に分かる 此の町の基本設計はイスラムの物であり、また多くいたユダヤ人の物(例、シナゴーグ)である それは他のヨーロッパ諸国には見られない複合文化である また、後世に作られた聖堂・教会もその影響を受け、また以前の建物を改造、追加した様子が分かる 雰囲気がやや似ているのが南イタリア(ローマ以南)であるが、それでもこの地の壮大さにははるかに及ばない

 四番目にはこの町が典型的な防御に秀でた「戦闘」も考えた町づくりになっていることである ヨーロッパではどの町でも町の周囲に城壁があり、さらにその中に城主の館や城がある(あった) それらをバーグ、ブルク、ブール、グラード・・などと呼んでいる だから、そういう名前の町は「城下町」なのである これは中国も同様である 反面日本の「城下町」は、城主の城の周りだけが固く防御され、商・工などの人々は外敵から守られていない そういう意味では、このトレドは川と崖と更に人工の高い壁に守られた「天然の要害」といって良い

 五番目に、日本人にもよく知られる画家「エル・グレコ」は故郷ギリシャから「流れ着いて」この町で人生を送った 此処で描いた絵も多く残っているが、「グレコの家」といわれる建物は、現在「博物館」となっている 因みに、彼の名前「エル・グレコ」は単に「ギリシャ人」という意味で、本名ではない それにしても、彼が住み着いたということは、いろいろな意味で魅力があったに違いない

 町は人々が長い時間をかけて岩山に築き上げたものであるから、ほとんどに手が入っている 石の家、石のアルカサル、石の大聖堂、道路も階段のすべて石である 一見緑も少なくて無味乾燥な町の感じだが、石々が競り合って微妙なバランスと調和を生み出している だから歩いていても妙に落ち着くのである 街中に車さえなかったら、きっと百年前もその前も同じ光景だったに違いない そういう落ち着き方である

 私事ではあるが、私たち夫婦は24年前に此処を訪れている それは個人旅行で、アフリカから飛行機を乗り継ぎ、マドリッドから列車で「日帰り旅行」をした 運悪く「正月休み」で「グレコの家」は休館中で見学はできなかった それから幾星霜、日本から「団体ツアー」で此処に来ることとなったが、それはトレドが旅程に含まれていたからである しかし残念なことに、またもや今回も「グレコの家」はパスしてしまった だからまた再訪の口実ができてしまった トレドはやはり魅力的な町である


Location: Toledo, Espana(Spain) Date: Nov., 2007 Digital camera: Sony F828


旅にまつわる話・トップ