日本のアスリートの国際性

 少し古い話で恐縮だが、以前テレビ番組で中国の卓球プロリーグで活躍する福原愛の話が紹介されていた。彼女のことは日本人ならみんな知っていて、応援しているファンも多いことだろう。かく言う私も彼女のファンである。あの若さで故郷を離れ、頑張っている。そして言動もしっかりしていて、かわいい。

 しかし私が驚いたのは、彼女の中国語の流暢さであった。その国で住んで「仕事」をしているのだから、少しくらい話すのはまあ当たり前のことだ。しかし彼女の話力は半端ではなかった。何と地元のテレビ局のインタビューに、通訳がいなくても愛嬌よく堂々と答えているのだ。さすがにまだ難しい表現には聞き返していたが、その場合でも「相手の目を見て」話しているのである。
 
 これを見て、私は以前に見た二人の有名男性ゴルファーのことを思い出していた。それは何年前だったか、男子ゴルフの世界選手権シリーズ最終戦、国別対抗のEMCワールドカップ(W杯)で、日本チームがアメリカに二打差で勝って優勝した時のことだ。その二人とは、伊沢利光と丸山茂樹である。場所はメキシコのゴルフ・コース、さっそくインタビューが始まった。

 アメリカ人?のインタビューアーが英語で質問を始めた。すると丸山がこのように言ったと記憶している。"Sorry. We can't speak English."その後、彼はインタビューアーをかるく無視し、ややおどけて見せた。

 丸山といえば、日本人なら誰でも名前を知っている日本を代表するプロゴルファーだ。そしてアメリカのツアーに参加してから、もう何年も経っている。上位にも入ったこともある人だ。その彼が全くしゃべらない(しゃべる気がない)とは意外だった。英語が苦手かもしれない。それでも、下手でも一生懸命に英語を話した方がよかった。海外で活躍することの中には、「英語を話す」ことも含まれている。

 私は海外で活躍する日本のアスリートを見るのは好きである。自分とは何の関わりもないが、同じ「日本人」として何となく嬉しいのである。オリンピックや世界選手権で翻る日の丸も好きである。そういう中で、丸山の活躍もときどき見聞きし、素晴らしいとも思っていた。しかしこの一件で、私は俄然彼のことが好きでなくなった。

 サッカーの中田も野球のイチローもかなりことばができる。特に中田はイタリア語という日本人にややなじみがうすい言葉を当たり前にしゃべる。何かの番組で、イタリアのテレビ局のインタビューにイタリア語ですらすら答えて居た。聞き取りもできているようであった。正式に学校で習った訳ではあるまい。きっと努力したに違いない。

 もちろん中田、イチローと先述の丸山は年齢が違う。下の年齢になるほど、外国語に抵抗、違和感がなくなるということは理解できる。あの時の丸山は、「来るはずだった通訳が間に合わなかった」という事情もあったらしい。それにしても、アメリカのツアーに参加し続けているのだから、少しでも英語で言うべきであった。現地での「好感度」も違ってくるはずだ。プロには、「サービス精神」も必要である。

 ゴルフの女子プロ(LPGA)で優勝した韓国選手もまあまあ流暢に英語を話していた。今ではベテランの域に達したテニスのマルチナ・ヒンギスはチェコ生まれであったが、若い時から英語は上手かった。もちろん日本語は他の言語とつながりがない言語であるから、言葉を生業としない人が下手でも仕方がない。問題はその「姿勢」である。

 今年から正式にアメリカツアーに参加した宮里藍はこう言っていた。「きちんと英語が話せるようにがんばります」と。ただゴルフができればいい、勝てばいい−というのではなく、他の英語圏でないアスリートと同じように、英語で外国の仲間と交流し、英語で「勝利インタビュー」をしたいのだ。「世界で活躍するアスリート」とはそう言うものだろう。若い日本のアスリートたちにエールを送りたい。

              (文は著者のブログ「おかしいじゃろ!それ!」5月23日より転載)
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